漢方あれこれ

漢方薬の効き目の不思議

 漢方薬は確かによく効きます。しかし、科学的に薬効が証明されている不思議?わけではありません。
 「○○という病気に効く漢方薬は何?」、「漢方薬はどうして効くの?」、「漢方薬は病気の原因のどこを治すの?」などとよくきかれますが、このような質問に対して、漢方の考え方を述べることはできます。
 しかし現実には、西洋医学的な答えを求める人が多いものです。
 漢方薬の効き目を西洋医学の考え方で説明しようとするのは容易ではありません。というか、現在の科学では不可能なのです。ですから、これらの要望に誠実に答えようとすればするほど、「なぜ効くのかわからない」というしかありません。
 この漢方薬に含まれる△△という成分が、人間の体の××の働きを強くして病気を治すなどという理屈では、漢方薬の効き目は表現できないのです。
 また例えば、漢方薬で冷えを改善すると病気もよくなるなどという理由付けをすることがあります。しかし、冷えを改善する漢方薬がたくさんある中で、なぜこの薬を選ぶのかという根拠にはなりません。
 桂枝湯(けいしとう)という漢方薬の加減方を例にして、漢方薬の効き目の複雑さの一端を知っていただき、上手に漢方薬を利用する一助になればと思います。
桂枝湯(けいしとう)の加減方について
 桂枝湯(けいしとう)という漢方薬があります。中国の 後漢時代(二二〇年頃)に著された『傷寒論』(しょうかんろん)という医書に収載されている処方です。桂枝湯は多くの漢方薬の中でも基本的な処方のひとつで、桂枝(けいし)・芍薬(しゃくやく)・甘草(かんぞう)・生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)の5種類の生薬から構成されています。
 そして、この桂枝湯を基本にして多くの加減がなされ、多様な漢方薬が作られています。その中の1つに桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)という漢方薬があります。
 桂枝湯と同じ5種類の生薬で構成されていますが、桂枝湯の中の芍薬の量を2グラムだけ増やしたものが桂枝加芍薬湯です。
桂枝湯(けいしとう) 桂枝4.0g 芍薬4.0g 甘草2.0g
生姜1.0g 大棗4.0g
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 桂枝4.0g 芍薬6.0g 甘草2.0g
生姜1.0g 大棗4.0g
不思議???  同じ生薬で構成されているということは同じ成分が含まれているので効果も同じなのでは?と想像してしまいがちですが、桂枝湯は風邪などの発熱性疾患に使われる薬であり、桂枝加芍薬湯は便秘や下痢など、腸の変調の改善に使われます。
 これを料理に喩えてみましょう。桂枝湯をカレーライスとします。その中の玉ネギを少し増やすだけで親子丼に変わってしまうようなことなのです。
 桂枝加芍薬湯の他にも桂枝湯に少しの生薬を去加するだけで、全く異なる効果をもつ漢方薬に変わるものは多くあります。
 桂枝湯から芍薬を去ると桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう)になり、動悸や呼吸困難を治し、朮(じゅつ)と附子(ぶし)を加えた桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)は、神経痛や関節リウマチに効果的です。
 これらも料理に喩えるなら、カレーライスの中の野菜の一つ二つを抜いたり加えたりすれば、キツネうどんや天ぷらソバになってしまうような大変な変わりようなのです。
 このように、漢方薬はよりよい効果を求めて、様々な工夫がされてきました。漢方薬の構成生薬の配合は自在に工夫され、微妙な内容の違いで効果が大きく変化することがめずらしくありません。
 一つの処方にいろいろな生薬を去加して作られる加減法は、桂枝湯だけでなく多くの漢方薬で考えられています。配合される生薬や成分だけで漢方薬の作用を明らかにすることは不可能ですし、西洋医学の理屈ではとうてい理解できないことです。
 ですから、現代の科学で薬効が解明できていない漢方は西洋医学の理論で考えると矛盾も多く、対応が難しい場合も少なくありません。漢方薬は漢方という方法論で、上手に使うことが大切なのです。
桂枝湯の加減方の一部
去加する生薬 新たにできる漢方薬の名前



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- 芍薬 桂枝去芍薬湯
 動悸や呼吸困難などに用いる
+ 芍薬 桂枝加芍薬湯
 腸の不調などに用いる
+ 黄耆 桂枝加黄耆湯
 皮膚病などに用いる
+ 葛根 桂枝加葛根湯
 風邪や肩こりなどに用いる
+ 蒼朮・附子 桂枝加朮附湯
 神経痛やリウマチなどに用いる